画工人渡辺俊明先生の絵付け陶磁器について
私は、1989年に知合いのギャラリーが企画した渡辺俊明展ではじめて先生にお会いしましたが、先生はその時には既に陶磁器への絵付けを行っていました。私には絵ともにその絵付けがとても魅力的なものに感じられました。
先生は、古いもの現代のものを問わず、形が良くて使いやすい器をもとに窯元(益子、仙台、九谷など)に注文し、素焼きが出来上がったときに窯元へ行き、絵付けを行っていました。絵付けは鉄絵、ごす絵が主でしたが、他に赤絵、金彩も行っていました。作品は主に蓮笑庵展(福島県田村市)や画虫居展(静岡県新居町)で販売していました。先生の絵付け陶磁器の特長は、しっかりした使いやすい器に活きた線で自由奔放に絵付けをし、何気ない器を普段使いの魅力的な器に変えてしまうことであり、また器の種類も多く、しかも価格も控えめでした(古今のデザインを自分なりに消化し独自の表現をした)。
先生は、日常の生活をとても大切にされ、生活そのものが美しくなければ美しいものは生み出しえない、という強い信念を持って生活されていたので、その結果としての器への表現だったと思います。
先生は2005年に亡くなられましたが、その器は、絵とともに生活の中で時を経て益々評価されるだろうと思います。
私は先生との交流の中で、いずれは器を扱うお店を始めたいと思うようになり、また先生の応援もあり、先生から少しずつ器を譲っていただくことになりました。先生が病に倒れてからは、画虫居の渡辺春美さん(先生の妹さんで先生の仕事を実質的に支えてこられた)にも譲っていただきました。
既にお二人とも故人となられたが、成し遂げた仕事は正に時代に生きた生活に生きたものであり、多くの人々に感動と幸せを与えてくれました。ご冥福をお祈りいたします。
私は、2008年10月に暮しの器「むぎわら」をオープンしましたが、お店の役割のひとつとして先生の絵付け陶磁器の素晴らしさを少しでも多くの人に知っていただけたらと思っております。